Preferred Networks
リサーチャー丸山氏が語る

深層学習教材への想い

Preferred Networksリサーチャー丸山氏

深層学習、機械学習の分野で世界をリードする株式会社Preferred Networks(以下、PFN)において、AIを活用した自動運転の研究開発に取り組む丸山史郎氏。現在の研究やChainer とレゴ® マインドストーム®を組み合わせた新しい教材開発への想い、エンジニアとしてのこれまでを聴きました。

PFNに至る経緯と
現在の研究内容

PFNにジョインすることになったきっかけは、事業内容に興味があったからでしょうか?

[丸山氏] 私は前身のPreferred Infrastructure(以下、PFI)に入社しまして、PFNがスピンオフした時点からの社員です。2012年4月のPFI入社までは、大学院の博士過程でデータ圧縮の研究をしていました。当時からその分野では岡野原(※現PFN副社長の岡野原氏)の研究がよく知られていて、ぜひ一緒に仕事をしたいという思いがありPFIに入社しました。研究だけで終わらずに、実用化まで目指すというところに強い憧れを抱いたのがきっかけです。

現在、どのような分野に関心をお持ちですか?

[丸山氏] PFNでは主に移動するロボットをどうやって賢く動かすかという研究開発をしています。主にパートナー企業との共同開発が中心ですが、その他にもCESでロボットカー、CEATECでドローンを動かすデモンストレーションの開発にも携わりました。
以前はバイオインフォマティクスの研究開発をしていたので、私がロボットや機械学習に取り組んだのはPFNが始まってからです。ちょうど深層学習が注目され始めた頃で、画像認識を活用することでロボットの世界が変わるのではという可能性を感じ、期待を持っていました。

いわゆる「AI」という語が非常に多く使われるようになりましたが、今後どのようにして一般に浸透していくと予想されますか?

[丸山氏] まず「AI」という言葉の定義が非常に曖昧ですね。深層学習がブームになり急激にメジャーになったことで、教える側(先生)の負担が大きいのではないかと思います。時間をより自由に使える学生の方がよく知っているようなこともあって、今学んでいる学生の皆さんが教える立場になるまで、「AI」の理解浸透には少し時間がかかると考えています。それから、機械学習の教材には数式が登場するので、数学の前提知識を学ぶところにも抵抗があるのかもしれないですね。そういう人には、初歩的な数学だけで十分で、それほど怖くないということを啓蒙する活動が必要かと思います。深層学習が流行する前の機械学習の分野はもっと数学的な世界で、そちらのイメージが先行しているのかもしれません。

深層学習の理解を強力に
後押しするチュートリアルと新教材

2019年4月に公開された深層学習フレームワークChainerのチュートリアルは、非常に大きな反響があると伺いましたが、予想通りでしたか?

[丸山氏] そうですね、一から丁寧に説明してありますし、個人的には流行ってもいい内容かなと思っています。機械学習や深層学習の分野で用語自体が曖昧だったり、日本語と英語で意味が違ったりしているところを理解している人間が作っているので、教材として注目されるだろうと考えています。

このタイミングで、Chainerそのものの開発ではなく、それを広めるための教材開発に進んだ契機は何でしょうか。

[丸山氏] まず経緯をお話しますと、CES2016でレゴ® マインドストーム® を使ったぶつからない車のデモンストレーションをしました※1。これは一目見てすごいなと分かるようなものだったので、そのデモだけで終わらせたらもったいないという気持ちがありました。2017年のインターンシップでは、CES2016のデモのノウハウを応用し、マインドストーム®にラズベリーパイやセンサーを載せて、ロボットカーが単体で計算して独立して動作するという使いやすい車をインターン生と一緒に開発しました。(CES2016のデモでは、定点カメラによる画像認識、サーバーとの通信が必要なシステムだった。)
その後、奥田(PFNの現CTO奥田氏)からロボットを使った教材を作りたいという話がありまして、せっかくだから世の中に出せるものにすると面白いと思って開発することになりました。

教材に対してどのように思ってもらいたいですか?

[丸山氏] 深層学習を勉強するということをハードルに思うのではなく、まずロボットを動かすことを面白そうだと感じてほしいです。深層学習って何だろう?と思って、ロボットに使うとどうなるだろう?と、スムーズに学びを進めていけるようにしたいと思っています。

どんな方に教材を使って学んでほしいですか?

[丸山氏] できれば、これまで全くロボットプログラミングをやったことの無い方、深層学習を勉強する時、数学に抵抗を感じるような人に、直観的でもいいので、まず興味を持ってもらう入口として使ってほしいです。興味を持ったらChainerチュートリアルで、さらに丁寧に学んでもらえるといいですね。

深層学習の教材はパソコンだけで学ぶものが多いですが、教材に実物(ロボット)を使われたのはなぜでしょうか。

[丸山氏] 実物を動かす方が圧倒的に楽しいからですね。PFNでもロボット開発の時にシミュレーションを使うことはありますが、シミュレーションが成功した時よりロボット(実物)が動いた時の方がすごいと感じますし、現実の問題を解決したことにつながったような嬉しさがあります。マインドストーム®は動かしやすくて、動かしながらの作業もしやすいです。CESのデモを開発した時に他のロボットも検討しましたが、マインドストーム®はモーターの精度が良く、複数台を並行で動かす時でも個体差があまりなくてコントロールしやすいです。

教材を開発することと、研究開発では何が違って、何が面白いですか?

[丸山氏] 教材開発は実際に使う人のことを考えながら作るところに面白さを感じます。研究開発では、ある会社の課題や技術的な難しさに取り組むことが多いですが、教材開発では、学ぶ人に伝わる、分かってもらえる内容をどうやって作るかに楽しさがあります。機会があれば他の教材も作ってみたいですね。

初めての小学生向け体験教室で感じたこと

小学生向け体験教室

2019年6月には、小学生向けにディープラーニング体験教室※2 を実施されましたが、子どもたちの反応をご覧になっていかがでしたか?

[丸山氏] 小学生向けにやるというのは会社としても初めてでしたが、アンケートでロボットカーの評判が良かったので、準備は大変だったもののやった甲斐があったなと思いましたね。子どもたちの反応は、その場に居た堤さん、どうでしょうか。
(堤氏は、同じチームの方)

[堤氏] 反時計まわりで動くロボットがあり、それを工夫するとどうして時計回りにも反時計回りにも両方まわれるのかなど、自分たちで考えて答えを導き出そうとしている姿勢には驚きました。

子どもたち向けの体験教室で気にかけたことは何でしょうか?

[丸山氏] 事前に子どもたちが分かり易いようにかなり準備しましたが、うまく伝わっているかが気になりました。言葉の難しさもそうですし、スライドを一生懸命見ている子どもたちが何を考えているかなと気になっていました。

小学生に教える場合と、学生や大人に教える場合では、どこが一番違いましたか?

[丸山氏] 子どもたちに対しては、技術的な詳細に触れずにどういうものかを伝えないといけないと思ったので、ルールベースのプログラミングを説明して、ディープラーニングを使うとものまねができます、ものまねを工夫すると、というような伝え方をしました。やってみて思ったのは、ルールベースのプログラミングが子どもたちにはまず難しいかもしれないということでした。(注:今回の体験教室は、カラーセンサーを使って白黒コースを一周するという内容で行われました。)

ミッションは実用化、世の中に貢献する研究開発を

まだ世の中に無いものを生みだすような最新技術の研究開発で、心が躍る瞬間を教えてください。

[丸山氏] 自分が関わった研究開発が実用化に近づいたとか、デモに対する反響が大きかったとか、世の中に貢献していると感じられるとか、そういったことですね。大学で研究していた時は味わえないような喜びです。

やはり実用化を重視されていますか?

[丸山氏] そうですね、社会でちゃんと使われるということを重視しています。PFNは、研究だけでなく実用化まで進めたいという人が集まっている会社だと思います。

入社のきっかけは岡野原様とおっしゃっていましたが、入社されてみてさらに面白さを感じましたか?

[丸山氏] もっと研究寄りかと思っていたのですが、研究だけにとどまらず、ソフトウェアとして世の中に出すこと、実用化に結び付けることをミッションとしているので、しっかり考慮されていると思いました。

研究としては成立していることでも、実用化となると難しい場合、どのようにして乗り越えていますか?

[丸山氏] あきらめなければ何とかなると考えています。PFNで使っているコミュニケーションツールに質問を投げかければ周りの社員も助けてくれますし、困った時にはいろいろな分野の優秀な人からのアドバイスを参考にしながら進めています。

番外編

子どもの頃は、どんなことが好きでしたか?

[丸山氏] 子どもの頃はゲームをプレイするのが好きでした。PFNは子どもの頃からプログラミングに夢中だった人も多いですが、私がプログラミングを始めたのは大学の授業ですね。家にパソコンがやってきたのは16-17歳(高校生)の頃で、使ってみて面白さを感じて情報系の大学に進み、プログラミングを始めました。きっかけは少し遅いかもしれませんが、大学時代はプログラミングに没頭しました。

プログラミングは一人でどこまでも追及できる点も深さや面白さの一つかなと思いますが、いかがですか?

[丸山氏] それもありますね。ただ、一人だと周りからのフィードバックが無いので、サービス開発には難しいこともあると思います。最近だとOSSの活動に参加したり、仕事を通じて優秀なエンジニアたちからフィードバックをもらったりすることが、勉強になっています。

※1 Preferred Research 「CES2016でロボットカーのデモを展示してきました」
https://research.preferred.jp/2016/01/ces2016/
※2 Preferred Research 「小学生向けディープラーニング体験教室でロボットカーの授業をしました。」
https://research.preferred.jp/2019/06/robocar4deepcon/